4.17 RIZIN.1&グラップリングダブルバウトについて

4.17 名古屋。昨年末から始動したRIZINのナンバーシリーズがいよいよ始まる。

しかし直前に迫ったここまで、出揃ったカードに対してあまりいい声は聞こえてこない。マッチメイク批判以外にも総合の試合だけでなく、今回も5つのルールがある多様な試合形式を行うことへの不満なども聞こえる。

詰まる所、観たいのは“それじゃない”ということなのだろう。だが、じゃあ“それ”は何なのか?というとそれもまた、具体的で現実性のある声はあまり聞こえない。

カードに関してはある程度長い目で見る必要はあるし、シュートボクシングやキックの試合に関しても確かに一般の視聴者やライト層には混乱を招くかもしれないが、総合を見に行って大和哲也の立ちの試合が見れるというのは凄いことだし、失礼な言い方になるが非常にお得だとも言える。

と、運営の肩を持ちつつ、だからといって今回のRIZIN.1が心躍るかと言われたら自分自身も“そうでもない”のが現状であるのは事実である。

MMAから寝技を取ったものをキックルール、その中で投げと立ち関節を有効にしたものをシュートボクシングルール、MMAから打撃を取ったものをグラップリングルールと大まかに見るならば、RIZINは全方位の格闘技の祭典をしようとしている。

そんな多様なルールの試合が行われる今回のRIZIN.1の中でその中でも、一番色んな声が出て、多分終わってからも出るだろうと危険な匂いがプンプンしているのが桜庭和志&所英男組vsヴァンダレイ・シウバ&田村潔司組のグラップリングダブルバウトだろう。


桜庭とシウバが再び向かい合う。そこに田村潔司もいる。

格闘技ファンからしたら各々、冷静には語れない連中である。

“胸熱”である。夢の様なマッチメイク。日本のリングで今、これ以上のレジェンドの集結は他に無いとさえ言える。

なのに盛り上がる声が聞こえない。

グラップリングのみの試合。そしてダブルバウト。

色々声を拾ってみるが、全盛期を過ぎた選手がどうとかグラップリングどうこうというよりも今のところ一番受け入れられていない理由は、『ダブルバウト』にある。

色んな言葉があるがその中を探ると、そこには最も勝ちと負けのコントラストが強い格闘技のリングの中で『真剣勝負』が薄まるという想いが見える。

その気持ちはわかる。また、見慣れない人にはプロレスのタッグマッチのように感じるのかもしれない。


だが、自分はこの試合が非常に楽しみである。

もちろん自分が桜庭和志贔屓なのはある。田村潔司もヴァンダレイ・シウバも所英男も大好きだ。

だけどもそれとは別に大舞台でのグラップリング勝負というのは昔から観てみたかった形式である。

グラップリングのみの試合は過去にも総合のリングの中で行われてきた。修斗やZST、コンテンダーズ、PRIDEで行われたこともある。KIDや五味、宇野薫などの有名な格闘家や今回参戦する所英男もかつて行なっている。その中にはダブルバウトもあった。それらはとてもスピーディーで面白く、そして何よりカッコ良かった。

海外では古くからあるアブダビコンバット。ここで優勝すれば寝技世界一と言われ、それはそのままMMAの世界でも十分に通用する肩書きになる。また、最近ではハレック・グレイシーが主催しているMetamorisというグラップリングの大会がある。これには過去に青木真也や桜庭和志も出場している。今は金銭問題などの噂も聞こえはするが、イベントとしては見ていて非常に洗練されていたし、そしてこれもまた選手たちがカッコ良く映った。

ファッション格闘技という言葉はいい意味では使われない言葉だが、グラップリングマッチはスポーツ的なファッション性を高く感じる。

試合着も道着ではなく、ラッシュガードという水着のような伸縮性、密着性の高い素材を着用し、下は通常の試合のスパッツやハーフパンツで行われる。これが見た目として、普通の格闘技よりも大きくファッション性を上げている。中には上半身裸で戦う選手もいるが、それもまたその中に入れば個性に映るし、見た目だけを言えば、スノーボードやスケートボード、サーフィンなどボード系スポーツの持っているものに意外と近いのではないかと思う。(余談だが、今回グラップリングマッチに出るサクが、商才は全くないと言えるあのサクが、まさかのこのタイミングでRavar(ラバー)という新しいスポーツブランドを立ち上げ、そこの看板商品にラッシュガードがあり、それがまたオシャレ 笑)

見た目が良く、試合が動きのある面白いモノになれば十分に可能性のあるジャンル。

そして興味を持ってもらえれば打撃系格闘技に比べダメージの心配は大幅に少なく、実際に競技をやってみようとする人のはじめの一歩のハードルも低いのではないかと思う。


だから今回は非常に楽しみである。

大舞台でこの形式の試合を見るのは始めてだし、しかも出場する選手が桜庭和志、田村潔司、ヴァンダレイ・シウバである。自分にとってはこの形で観たい一番のモノが一番最初に出て来た感じだが、先に挙げた競技性の話をすれば今回鍵を握るのは所英男だと思う。所英男は間違いなくこの形式にハマる選手である。過去のグラップリングマッチでも素晴らしい試合をしてきた実績もある。そしてMMAの試合でも所は良くも悪くも、相手を殺さない。その結果スウィングした試合が生まれる。だからこそココに所英男を入れたのだと思うし、グラップリングマッチはライトからウェルターぐらいの階級が一番見ていて動きも速く見応えがある。所英男はこのジャンルのひとつの柱になれる可能性があるし、その階級なら日本には他にも、宇野、五味、KID、青木、マッハ、或いは佐藤ルミナなど観てみたい選手、組み合わせはたくさんある。


実験的な側面もあるだろう今回のグラップリングマッチ。だけど次への手応えは手に入れたい、からの所英男起用。そして注目をしてもらうための桜庭、田村、シウバというド級の存在感を持つ大御所3人。存在感、物語性、日本格闘技においてこれ以上ない至極の桜庭-シウバ、桜庭-田村の関係性。

それをココで一気に使う。

よくよく考えれば、かなり勝負に行っているのがわかる。これで何も反応が無ければ本当に二度と行われないかもしれない。

当初、シウバのパートナーは『X』になっていた。かつてシウバとともにシュートボクセに所属し、桜庭とも面識のあるアンドレ・ジダかな?などと短絡的に考えていたら、榊原代表が田村潔司を考えていると言う。その時点で田村は3.25に巌流島での試合が決まっていた。

田村潔司という男を考えた時、ここは出てこないだろうというのが第一感であった。赤いパンツの頑固者である。田村潔司は自分の『見え方』を考える格闘家だ。桜庭-シウバがいる中では出てこないだろうと思った。だが、この試合形式自体はU-Styleにも通じるし、田村潔司のやりたい『格闘技』に当てはまるモノだろうとも思った。だからここでは出ないが、後々状況を見ながら参戦する可能性は十分あるだろうという予想だった。

しかし3.25の巌流島の後、田村潔司は参戦を発表した。

まだまだ自分は田村潔司を理解できていないなぁと思いながら記者会見を見たが、ひとつ引っ掛かることもあった。田村は巌流島で負け、その時に負傷し、顔を3箇所骨折していた。グラップリングマッチであるため主催者側も田村の出場を決め、田村自身も出場する以上怪我を前面には出したくないと言う。

怪我、それも骨折している選手をグラップリングマッチだからと出場させる是非はここでは省く。普通に聞けばそれは田村の男気に聞こえる。だけどもここで想像したいのは、もし怪我をしなかったら田村は出場しただろうか?ということである。

決して田村潔司を否定しているわけではない。本当に大好きな格闘家だし、むしろそういう事をファンに想像させてくれるのが田村潔司の魅力で、田村が孤高と言われる所以だとも思う。

そしてサクはそういうトコロが嫌いなのだろう(笑)

かつてサクは著書でこのように書いていた。

「考えていることがわからないんだけど、考えていることがわかる」

「みんながフルチンで上がるリングに、田村さんは海パンを履いてくる」

「同じクラスにいても友達にはなれないタイプ」

決して犬猿の仲とか、相手を許せないとかいう不倶戴天のような仲ではなく、ただ、相容れない。

そしてタムちゃんも同じように多分サクのコトをわかっている。

今回のRIZIN公式サイトのインタビュー。

――去年の年末RIZINで行なわれた桜庭vs青木戦の感想をお聞きしたいんですが。

「えっと、感情って日によって違ってくるんですけど、観た直後っていうのは、まあ、やっぱり桜庭を応援していたので。結果は、青木真也の型にはまったので、うーん、まあしょうがないといえばしょうがないですけど、結果が全てなので。でも、昔一緒にいた仲間がボコられるのを観ると、ちょっとそういう悔しい感情はでてきますよね。ただ、桜庭が僕の発言を聞いて大きなお世話っていうふうに思うんであれば、やられてよかったねっていう(笑)」

相手がわかる。認めてもいる。一緒の時間を過ごし、離れ、年月が過ぎ、色んなモノが混ざって混ざって、いい感じに・・ならない(笑)

結局、いくつになっても相容れない。そんな素敵な関係。

そしてこの2人の関係性においては、タムちゃんの方が敢えてサクと呼んだり、褒めたり、圧倒的に大人である(笑)サクはタムちゃんに対してだけは本当に子供である(笑)それがまた、2人のファンとして不謹慎だが、微笑ましい。


そしてそこにヴァンダレイ・シウバ。

言わずと知れたサクの宿敵であり、盟友。桜庭-田村ともまた違う『お前がいる。俺がある』の関係。そしてパートナーの田村ともかつて殴りあった仲である。

当初、シウバがこのグラップリングマッチをエキシビジョンのような、今後RIZINで行うであろうMMA戦の前の顔見せ的な試合だという感覚だったら怖いなと危惧していたが、やはりヴァンダレイも一時代を築いた選手であり、Mr.PRIDEと言われジャンルを背負った選手である。インタビューの受け答えひとつ取っても、ヴァンダレイ・シウバが真にプロフェッショナルだということがわかる。

「桜庭に最後のチャンスをやる」「リングの中ではジャンケンだって負けたくない」「所はリングの外に投げ飛ばす」

発言のひとつひとつに期待が膨らむ。100%危惧が晴れたわけではないが、きっと大丈夫と思う。大丈夫、だよね?(笑)


一発目として最高のメンバーは揃っている。ジャンルとしても可能性がある。後は試合がどうなるか。そこで重要なのが、ルールである。実は一番早くそこを知りたかったのに、RIZINが公式にルールを発表したのは大会3日前の14日。ちょと遅い。

【グラップリングダブルバウトルール】

・試合時間は1試合15分3本勝負で、2本先取したチームが勝ちとなる。

・すべての打撃は禁止。

・タッチ(選手の交代)は1試合(15分間)で1チーム5回までとする。

・タッチは、コーナーに控える選手が両足(もしくは片足)がリングエプロンに接地した 

状態でトップロープ越しに、タッチロープを掴んだ状態で行なわなければならない。

・タッチする側は手のひらのみ有効となり、タッチされる側は体のどの部分でも認められる。

・どちらかが一本を取った際は、そこで1本目は終了する。2本目の開始は、1本目を取ったほう・取られたほうではない選手により試合が再開されることとする。

・15分でどちらのチームも2本取れない場合は、ドローとなる。(判定は行われない)


3本勝負で、1試合15分。1試合のタッチは5回まで。1本取った選手はそのままで、取られた側が選手を交代して次の試合が始まる。

特に奇抜なルールはなく、タッチも回数制限のみで必ずしなくてはいけないわけではなく、膠着時の事も書かれていない。

広めに作りまずはこれでやってみて、そこから更に検討していこうというルールだろう。

一本取られたら終わりのMMAのリングの中で、3本勝負。1対1の勝負の中でのタッグマッチ。最初に書いた一番受け入れられていないだろう理由。「真剣勝負」の薄さを覆せるか。又は別の面白さを提示出来るか。それでもRIZINでやる以上「勝負性」は絶対に必要だし、試合が動くものにするためにも、グラップリングであろうと、いやだからこそ今後は選手同士の体重調整は必要になってくる。見る側の勝手な言い分だが「膠着」が一番届かないのはやる前から誰もがわかっている。でも動きさえあれば、きっと面白いものになると思う。今後の鍵を握るのは所英男と書いたが、桜庭、田村ももしお互いが動こうとすれば(主にタムちゃんが 笑)、スウィングする可能性は十分にある。期待値は高い。

「格闘技」ではあるが、その中でよりスポーツ性があり、ファッション性が高く、スポーツ的勝負性がある。そうなればきっと、RIZINの中でも受け入れられると思う。

個人的な希望で言えば、今後シングルマッチも観てみたいし、ダブルバウトでトーナメントやリーグ戦なんかも出来るんじゃないかなど勝手な妄想が膨らんでいる。

だから、どうか続いて欲しい。


そしてRIZIN.1全体に関しては、最初に書いた全方位の格闘技の祭典。

それぞれの場所でトップを取った者達を集めたオイシイとこ取りの格闘技イベント。

もし、そんな興行が本当に成立し続けられるのなら、格闘技を見るファンにはこんなに楽しいイベントはない。だがその為には他とは朗らかに『違う』イベント、明確なメジャーイベントとして確立しないと継続は難しい。規模、注目度、選手が出る、団体が送り出すメリット、それらメジャーイベントとしてのずば抜けたブランド力。今は過去の実績がソレを補い成り立たせている。その効力がある内に地盤をつくり、新しいコンテンツとしての可能性を示せるか。まずは2年、来年の2017年大晦日がどのような形になっているかで見えてくるものがあると思う。今回も選手のインタビューなどからはメジャーイベントへの高揚感は伝わってくる。イベントを盛り上げようというモチベーションの高さが見える。それは絶対に観ている者にも伝播する。

だからこそ本物が欲しい。基礎の無いマンションのように、糸の切れた風船のように、PRIDEは消えた。豪華さ待遇、派手な演出や規模の大きさだけではない目に見えない本当のブランド力。

『信用』

格闘技ファンは今、それが何より欲しい。。。

平成28年4月15日 Nicotina Menthole

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