シェンムー3 シェンムーという物語 ~莎木という木に咲く(筈の)莎花という花~

シェンムーというゲームがある。1999年に発売されその後のオープンワールドゲームの元祖とまで言われる伝説のゲームだ。当時におけるその作り込みの凄さはここに細かくは記さないが、それはもうとにかく手が凝っていた。プレイしながら何度、そこまでする?と思ったかわからない程だ。街には時間があり、街の人々にはそれぞれの生活があった。まるでその街の匂いがわかるほどの作り込み、それは子供心にも変な感動を与えた。それほどまでに変態性と狂気を帯びた徹底ぶりだった。

 

主人公の芭月涼は目の前で父親を謎の中国人武術家に殺され、敵討ちを誓う。物語はそこから始まる。そこから始まり、そして中々進まない。それがシェンムーだった。

中国人の男の情報を集めるため涼くんは生まれ育った横須賀の街を駆け回る。だが街には楽しいものが溢れている。ガチャガチャをすればもう一回、もう一回だけと自分に言い聞かせ結局コンプリートしたくなり、ゲームセンターに入ればハイスコアを出さずにはいられなくなる。のどが渇けば自販機で缶ジュースも買う。そして今日も日が暮れる。

明日こそはと気合いを入れて情報収集に励めば、何故か港でフォークリフトのアルバイトをすることになる涼くん。来る日も来る日もフォークリフトで荷を運ぶ毎日。昼の弁当も美味しそうだ。

シェンムーには莎花(シェンファ)というメインヒロインがいる。最初からパッケージなどのメインビジュアルにも大きく描かれていて、誰もがこの娘がメインヒロインだとわかっている。これは涼くんと彼女の物語なんだと。だが、ストーリーを進めても一向にこの娘が登場してこない。一体いつあの娘に出会うんだ?誰なんだあの娘は?そんな思いを抱きながらプレイヤーは今日もフォークリフトで荷を運ぶ。

しかしそんなバイトのかいもあり、やっと香港に旅立つ時が来る。一気にあの娘との距離が近づきそうな予感である。だがその予感だけを残し、1はそこで唐突に終わる。作り込みの凄さとストーリーのボリュームの無さ。口を開けながら涼くんの出港を見送った。

しかしその世界観にすっかり魅了された自分は意気揚々と2の発売を待った。行くぜ香港、待ってろ藍帝。


2001年に2が発売された。香港へ到着した涼くん。様々な人々との出逢い、人間的にも成長していく。が、香港は横須賀以上に誘惑の多い街でもあった。ゲーセンやガチャの他に多様なギャンブル。ついつい足を止めてしまう涼くん。出会う人々に涼くんは度々「俺にはやらなきゃならないことがあるんだ」とかっこよく決めてみせる。でもみんなわかってる。ついさっきまでハングオンをやっていたことを。

そして2でもまた一向にあの娘に出会えない。香港から九龍城へと舞台が移っても出てきそうな気配すらない。1のボリュームを考えたらもういつ2のストーリーが終わってもおかしくない。そんなトラウマ的不安を抱えながらプレイヤーはストーリーを進めていくことになる。一向にメインヒロインが出てこないから、1でも2でも魅力的な仮ヒロインが登場していた。もうこの娘たちでいいんじゃないか?誰もがそう思った。もちろん悪いのはメインヒロインの莎花ではない。莎花だって早く来てと思っている。涼くんがスペースハリアーをやっている時も、落とし玉の台を選んでいる時も、莎花は運命(さだめ)を待っている。そう、たんぽぽの綿毛を飛ばしながら。なのに涼くんは果てはアヒルレースにまで手を伸ばしてしまう。悪いのは涼くんであり、スタッフであり、プレイヤーである。ごめんよ莎花。

まさか本当に2でも出てこないのか?しかし、その矢先である。九龍城から桂林へと行くことになった涼くん。そしてその桂林でやっとこのメインヒロイン莎花と邂逅することになる。長かった、本当に長かった。莎花の住む村まで並んで歩きながら色んな会話をする涼くんと莎花。ゆったりとした時間が流れる。いいさ、やっと出会えたんだ、今はいっぱい話せばいい。そんな思いで2人の会話を見守る。が、歩けど歩けど、山道山道。もう話すことも尽きて、口をついて出るのは「先を急ごう」のみ。一体いつ着くんだこれは?そしてまた思い出す。フォークにしろ、虫干しにしろ、いつまでやらせんねんがシェンムーであり、山二つ超えなきゃいけないとなったら本当に山二つ超えさせるのがシェンムーだったと。

そして迷子になり似たような山道を行ったり来たりしているうちにプレイヤーは何となく悟る。これは村に着いたところで終わるな、と。

そういう予想は裏切らず、莎花の家に着き一騒動起き、さあここからというところで2は終わる。

だが、やっと莎花と出逢った。物語に必要なボーイミーツガールがやっと起きた。2人のシェンムーという物語がやっとここから始まる。



そして20年(弱)である。

2019年である。

こんな不憫で、不遇なヒロインがかつていただろうか?

ずっと出番を待ち続け、自分の運命(さだめ)を見つめ続け、来るべき人を想う日々。その人は直ぐに脇道に反れあっちにふらふら、こっちにフラフラ。それでも何とか来てくれた。これからやっと私の出番。そこから20年である。

こんなに待ち続けたヒロインがいるだろうか?

2の終わりに出た「Story goes on」の文字

物語は続く。

続く・・というか莎花に至っては20年経ってやっと始まった物語だ。

そして20年経っても、みんな心の何処かに残していたこの物語の続き。捨てなかったあの涼くんのノート。

ノートは再び開かれた。3からは莎木という木に満開の莎花がきっと咲き誇る。

そして彼女にも、涼くんにも、そして自分たちにも、もう待ちはいらない。今再びの莎花とそして涼くんの物語が始まったことを莎木に感謝し、そして何よりも無事に完結することをただただ、莎木に祈る。

シェンムー3 2019年11月19日 発売決定 万歳!!

令和元年10月11日 Nicotina Menthole


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