【決着・祭りのあと】桜庭和志×青木真也 12.29 RIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX2015
“最近の桜庭和志の試合には常に死の匂いが付き纏う”
4,5年前、日本にまだメジャー格闘技があった晩年の試合前煽りVTR中の言葉である。
・・・。
桜庭和志が負けた。
何も出来ずに負けた。
簡単にテイクダウンからサイドポジションを取られ、マウントポジションへ移行され、ただ一方的に殴られて終わった。
全てが青木真也の戦前の言葉通りとなった。
「マットの上にあるのは現実」
「自分がやってきたことが彼と比べて劣っているとは思わない」
「彼が留守にしている間、追い込まれた日々を送ってきた。研鑽する日々を送ってきた。その差は間違いなく出る」
「留守にしてきた奴にやられることはない」
「どうしようもない試合になると思う。お前ら、どんな試合を組んでんだと言われるような、そういう試合になる」
「どこまで行っても愛だ」
試合前、追い込まれていたのはきっと青木真也の方。
今回の試合への言葉は、言葉の終わりにいつも“そのはずだ”、“そうじゃなきゃおかしい”という想いが聞こえる。
自分は【決戦前夜】、桜庭和志の側に立つと書いた。
この勝負、勝つのは桜庭和志だと、書いた。
互いの極めの強さの差が出ると書いた。本気で書いた。
でもそれは振り返ればやっぱり“そうであって欲しい”だった。
青木真也は本当に凄い。
本当は当たり前のように分かっていたこと。
それなのに目を背け、そこに蓋をし、それでもともしかしたらと無責任な想いを乗せていたこと。
もうずっと、ずっと前から、桜庭和志は総合格闘技を戦える体ではないということ。
体が、反応していないという事実。
そんなこと本当は、あの頃からわかっていた筈なのに、気付けば盲目的に狂信している自分がいた。
青木真也の試合後のコメント
「試合をする前はすごく怖くて、昨日も映像を見てて、15年前のコンディションのいい時を意識して、対面するまでは全盛期だと思ってきた。試合になればあの内容になったけど、まだ桜庭さん、楽しんでるなと思った。でもレフェリー止めろよ。お前が桜庭さん壊してんだよって思ったけど。日本(格闘技)復活とか言ってるけど、人潰して盛り上げるのかって。
相手のコーナーにも、レフェリーにも「タオル投げろよ」「動かないですよ」と言ってるのに。人潰して盛り上げようとしてるんなら、気持ちのいい仕事じゃないですね。正直、うれしくないですよ。」
「(桜庭の映像は)PRIDEのころもDREAMも(見た)。コンディションのいいころも悪くなってからも。体をささげて格闘技を盛り上げたんだなって感じました。一番強い桜庭和志を意識した。対面したのはやっぱり全盛期じゃなかったし、すごく寂しさがあります。これが現実なんですよ。でももうちょっと形があるだろ。あそこまでやらせる必要あんのかよって。切なかったですね。本当に。
(サブミッションは)トライしてるんですけど、取らせないんです。そうなるとフィニッシュするために殴るんです。「殴りたくなければ、サブミッションにいけばいいじゃん」って、格闘技ってそんなもんじゃない。試合終わって寂しさもあるけど、リスペクトは強まってますね。」
「泣く気はなかった。一つの仕事としてやるつもりだったけど、桜庭さんに(試合後)「これが仕事だよ」って言われて。それ言われたら無理だよ。プロフェッショナルについて僕は考えてきたけど、それ以上のことを言われてしまった。僕も何年後か落ちる時がくる。俺も32歳のオッサンなんだよ。若い子も俺を落とさないといけないよ。」
「(引退するなと訴えたが)この負け方したらみんな言うでしょ。でもみんな好きだし。自分が好きなのも対峙して感じたし。レベルを落として、グラップリングでもいいから、やってほしい。他人の声で決めずに、自分で決めてほしい。」
「これが仕事だよ」
なんて言葉なんだろう…。
100%桜庭和志は勝ちにいったはずだ。その為の準備をしてきた。勝てる見込みもあると思っていたはずだ。それでもどこかで、自分が勝てないことを、この結末を、分かってもいたのかもしれない。桜庭和志は誰よりもリングの中の“現実”を知っているのだから。
この試合を自分の中に落とすのは時間が掛かる。そう、思っていた。本来ならこんなに直ぐに文字に起すのは、到底無理だった。
29日の深夜、寝付けない。落ち着かない。宛もなくパソコン画面を眺め続けていた。
ひとつの“つぶやき”を見つけた。
【桜庭和志からのメッセージ】
皆さん応援ありがとうございました!
自分の型に持ち込めず相手の型にハマってしまいました。
すいません。また頑張ります!
桜庭和志のスタッフが管理している公式のツイート。
桜庭は病院に直行したため、試合後のコメントはなかった。
“また頑張ります!”
思わず笑ってしまった。呆れて笑えた。
貴方のファンが今、どんな気持ちかまるでわかっていない。あの会場の空気、みんなあの5分56秒をどんな想いで見ていたか。悔しくて、切なくて、哀しくて、やり切れなくて、簡単には消化できなくて、みんなこの試合を自分の心にどう収めるか、その作業を必死にやってる。
何とかソコに意味を見つけようとする。自分自身に当てはめたりもする。必死に理由付けをしなければ、あまりに深い勝ちと負けのコントラストにてアテられて、息が出来なくなってしまうから。
だけど、当の本人はそんなことお構い無しに、きっと「チックショー」って悔しがっている。
「こうすれば良かった」、「ああすればよかった」って始まっちゃてるかもしれない。
“また頑張ります!”
たったこの一言でその姿が想像できて、呆れて、笑って、心がフワッてなって、鳥肌が立って、震えた。
何て凄い人なんだろう。あれだけボコボコにされて、何も出来ずに負けて、現状の力の差をハッキリと突きつけられて、それでも尚、それなのにもう、この人は戦いたいのか。
ダメだこりゃ、である。あー、そうだ、この人馬鹿だった。知ってはいた。ファンだから。
『強さ』の『勝負』の次元が違う。あまりの違いに悪態も付きたくなる。
闘うことが大好きで大好きでしょうがない桜庭和志。極めっこが、やるかやられるかが大好きで、ソコにあった殺伐さも意味も大義もなんもかんも忘れて、ただ負けたコトを悔しがっている桜庭和志。
いいよ。貴方がそうまでカッコいいなら、僕達は何も言わない。
そんな、ひとつも“楽”じゃない桜庭和志の楽観主義がいつだって好きだ。
そうやってまた、大事なことを僕たちはもらう。
“オラ、ワクワクすっぞ”
孫悟空も、
“楽に行こう!!”
モンキー“D”ルフィも、
この国のHEROは、どんな状況でも、戦いの最中でも、どれだけ傷ついても、『陽気さ』を捨てない。
“また頑張ります!”
桜庭和志がそう言っている。何もかもを受け入れて、きっと陽気に悔しがっている。
陽気な人間の闘争は「生きるか」、「死ぬか」じゃない。どこまでも『生きる』だ。
だから、HEROは死なない。。。
平成27年12月30日 Nicotina Menthole
0コメント