新生K-1 木村“フィリップ”ミノルの可能性
最初に名前を目にしたのは2013年にKrushで“狂拳”竹内裕二をKOした時だった。圧巻のKOだったが、この時は狂拳がああいう負け方をしたという印象の方が大きく木村ミノルに対してはヴァンダレイ・シウバの入場曲を使っていることに意識がいった程度だった。
竹内を倒した事でKrush-63kg級のタイトルマッチに挑戦するが、チャンピオンの山崎秀晃に1R47秒でKO負け。この頃はまだ意識も注目もしていなかった。
2014年、新生K-1がスタートしその最初の大会が-60kgのトーナメント。木村もここにエントリーしていた。タイトルマッチで山崎に負けた後Krushで3連勝。全てKOで飾っての参戦だったが、1回戦で左右田泰臣に2RKO負け。ここでもまだ自分の節穴の目にはビッグマウスだけの選手として映っていた。特に興味もなかった。
この-60Kgのトーナメントを制したのがタイのゲーオ・フェアテックス。昔からずっとあるキック対ムエタイ。打倒ゲーオの構図となった-60kg戦線で、このゲーオの次戦の対戦相手が木村ミノルとなる。
その時の前日記者会見をたまたま拝見していた。確か佐藤嘉洋が参戦するので見ていたと思う。しかし、その記者会見で始めて木村“フィリップ”ミノルというキックボクサーに強く意識を奪われた。
2ショットの写真撮影から始まった記者会見はにこやかにスタートした。木村が軽快なトークで場の空気を作れば、ゲーオも勝ったほうが互いのファイトマネー総取りはどうかと提案する。それならベルトも賭けろと木村も返し会見場は盛り上がりを見せる。笑顔で記者からの質問に答えるゲーオ。非常に緩い空気の会見場。終盤、記者がその空気に流されて軽い質問をゲーオに投げ掛ける。
“明日の試合時間はどれ位ですか?”
ゲーオが笑顔で答える。
“おそらく4秒位でしょう”
記者から笑いが漏れる。
だがこの質問前から、木村は一切笑っていなかった。
木村が真顔で返答する。
「自分は正直、みんなが勝てないだろうと思っていることもわかっているし、それでも男として一度はそういう道を進まなくちゃいけないと思っているから。まぁ、4秒KOするならするで構わないけど、ただ、木村ミノルっていう一人の人生が掛かっているということだけは覚えていて欲しいです」
会場の空気が一変した。笑顔は消えた。
言葉よりも先にゲーオも間違いなくその変化に気付いた。通訳がゲーオに訳す。ゲーオの顔に緊張が走る。完全に呑まれた。ムエタイの伝説的なチャンピオンが10歳近く若い選手に気圧されている。この時はじめて木村ミノルという選手を意識した。言った言葉よりも、ここでコレを作っておかなくちゃいけないと思ったその感性に惹かれた。最初に自分で和やかなムードを作っておきながら、最後にいつまでもヘラヘラしてんじゃねえぞとぶっ壊す。20歳にしては生意気過ぎるが、誰にでも出来ることじゃない。
そして、試合当日。木村は3Rに左フックでダウンを奪い判定勝利。アップセットを起こしてみせる。これを契機に木村は一気に現K-1の真ん中に躍り出た。
次戦は魔娑斗時代のK-1を受け継ぐ純血種といえるHIROYAを1R1分45秒で3度ダウンさせてKO勝利。次に野杁正明をTKOで破ったマサロ・グランダーを判定で退け、直近では木村より若い17歳の平本蓮という難しい試合をクリアし4連勝中。
注目して見始めるとビッグマウスなんて事よりも、むしろ言葉の端々に知性を感じる。この年齢でここまで考えて言葉を発していた格闘家は過去を遡っても思いつかない。
負けはしたが左右田戦では、プロレス好きでコメントにプロレス用語やプロレスラーの言葉を引用していた左右田に対し苛立ちを露わにしながら、素人以下、プロなら自分の言葉を持てと言い捨て、HIROYAには、魔娑斗がいた時代のK-1に出ているのに勉強不足で、盛り上げ方も分からず学び方も知らないと一蹴する。
質問にしっかりと返事をする話し方、考えた言葉のチョイス、その上でのビッグマウス。そこには強烈なプロッフェショナルとしての姿勢が見える。年齢を考えれば末恐ろしいが、華々しいかつてのK-1を観て育ち、それが消えて無くなっていくのも見てきた世代。その時代が産んだファイターだと感じる。
K-1MAX初期、魔娑斗のライバルと言われた小比類巻貴之というキックボクサーがいた。彼は“ミスターストイック”と呼ばれていた。しかし、魔娑斗の物語と共に熱を増していったMAXの中で、格闘技ファンは魔娑斗の中にこそ本当のストイックさを見つける。
自覚と責任。そして献身。
11月21日、木村ミノルはゲーオ・フェアテックスとタイトルマッチを行う。
前の試合は負けたとは思っていないと言うゲーオに対し、木村は「“負けてないのに負けにされた”と思って過ごす日々と“勝ったけれど負けていたかもしれない”と思って過ごす日々では、成長の度合いに差が出る」と言い放つ。
結果がもたらす言葉の説得力。試合を乗り越える度に人間力も練られていくような今の木村“フィリップ”ミノル。
再びゲーオを破りチャンピオンとなり新生K-1の象徴となるのか、それともそんなものすら超えてジャンルの怪物へと進化していくのか。
現在進行形の木村ミノルの物語。今が一番、おもしろい。
余談…新生K-1は試合前の各選手の公開練習とインタビュー動画を毎大会UPして、最初に各選手それぞれ3分のシャドーを映しているのだが、これがとてもおもしろく、また木村ミノルのこのシャドーが凄い。是非これからもUPし続けて欲しい。
平成27年11月11日 Nicotina Menthole
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