桜庭和志×スーパーササダンゴマシン さいたまスーパーDDT2015 2015.2.15

真剣勝負という名のプロレス。

桜庭和志にとってプロレスは常に真剣勝負の中にあった。

それは単におもしろい技のことではない。

そこに生き様があった。物語があった。

楽しくて、嬉しくて、切なくて、悔しくて、心が震えるドラマと夢があった。


プロレスという名の真剣勝負。

DDT=Dramatic Dream Team.

DDTにとって真剣勝負の相手は常にお客さんだった。

プロレスの楽しさ。プロレスの激しさ。

見にきてくれた人を驚きと興奮と笑顔に包む。ここにもまた真剣勝負があった。


それは背中合わせの真剣勝負。

DDTが今まで造り上げてきたモノ。

桜庭和志が今まで見せてきたモノ。

まったく違う場所で闘っている。そう思っていた。

だけど・・・

プロレスという地球儀の端と端で、ふと振り返ると、すぐそこにお互いが、いた。


と、煽りV風味になってしまうくらい2月15日にさいたまスーパーアリーナ、の中のコミュニティアリーナで行われたDDTプロレスリングの興行「さいたまスーパーDDT2015」は素晴らしかった。

オープニングマッチではいきなり曙軍VSヨシヒコ軍。曙とヨシヒコのプロレスにウキウキし、みんなで「TOKYO GO」を踊る。まだオープニングマッチである。でも、この時点で既に来てよかったと思った。続いてのアイアンマンヘビーメタル級選手権では、時間差入場バトルロイヤルが行われ、最終的にアジャコングが1020代王者に輝く。1020代、なんと歴史のあるベルトだろうか。第3試合は試合中にルールがコロコロ変わるルールランブルマッチによるEXTREME級選手権試合、次はバラモン兄弟が豚の頭を持って暴れ回り、酒呑童子がリングの上で酒盛りするKO-D6人タッグ選手権試合と厳粛なタイトルマッチが続き、第5試合は大社長こと高木三四郎と狂猿、葛西純がカバンを奪取して勝利。そして第6試合は男色ディーノとシンガポールへ旅立つ中澤マイケルのスペシャルシングルマッチ。松崎しげるの「愛のメモリー」はスゲーなーと堪能し、ディーノのマイクに笑いながらホロっときたりこなかったり。

本当にプロレスのジェットコースターな大会だった。ここまででもうお腹いっぱい、ヨシヒコも見れた、アントーニオ本田のかわいいお腹も、ディーノのいつも通り仕上がっているキレッキレの肉体も、葛西純の背中もパールハーバー・スプラッシュも見れた。もう既に大満足だったわけだが、しかし、ここからが自分にとってこの日のメイン。第7試合、桜庭和志vsスーパー・ササダンゴ・マシン。


このDDT色の中に桜庭和志が入ったらどうなるのか?参戦発表からワクワクと一抹の不安が混在していたこの試合。終わってみれば自分が危惧していた不安など、この両者に対して失礼であったと痛感した。本物の“プロ”レスラーを前に自分の浅はかな想定など、投げっぱなしジャーマンの如く軽く吹き飛ばされた。

まずはササダンゴが「LONELY DAYS」にマッスルトレインで入場。しかもコスチュームは普段の緑色ではなく真っ白のコスチューム。今年の新日本1.4東京ドーム大会で桜庭と戦った鈴木みのるのオマージュだろうか。そしてお決まりの煽りパワポ(パワーポイントによる試合のプレゼン)。テーマは『プロレス界における格差問題を解消する方法』。強さの大資本家、桜庭和志に勝つ方法をピケティの格差論を用いながら観客に説明する。結論として、ササダンゴの必殺技、1発決まれば相手の体力を35%奪える垂直落下式リーマン・ショックを3発決めれれば勝てるという結論に達する。この試合前に大社長、高木三四郎に試し経営者、力を持つ者にはより効力がある事を確認している辺りは流石である。そしてこれを行う為に通常の床の6倍滑るバナナの皮を使用し、桜庭を転ばせるという世が世なら大軍師になっていたであろう策を用意する。

そんな策が用意されているとは露知らずにササダンゴと同じくストロングマシンのマスク姿で入場してくる桜庭。「TOKYOOOO♫」と「TOKYO GO」が流れてみんなが腰を振っていた同じ場所で「SPEED TK RIMIX」が鳴り響く。目の前には同じマスクのタルっタルのお腹廻りをしたササダンゴマシン。この説明しようのないケミストリー。DDTの底無し感を思い知る。

手四つからスピーディーなバックの取り合い、探り合いから桜庭のローキック、ササダンゴが痛みにたじろぐもすかさずセコンドにいる盟友、男色ディーノが「効いてない、効いてないよー」とササダンゴを鼓舞する。しかしミドルキック一発でコーナーに吹っ飛び、ミドルの連射でコーナーに崩れ落ちるササダンゴマシン。追い打ちをかけようと距離を取る桜庭。しかしここでササダンゴはコーナーのディーノからバナナの皮を受け取り、胸に忍ばせる。気付いていない桜庭はフライングメイヤーでササダンゴを寝かしてからジャンプしてのフットスタンプ。ササダンゴは狙い通りにバナナの皮を自分の額へのせる。通常の6倍滑った桜庭は派手に転び、その隙を付いてササダンゴマシンが1発目の垂直落下式リーマン・ショックを成功させる。あと2発。

桜庭の腕ひしぎを何とか逃れるも、またミドルでコーナーに追いつめられるササダンゴマシン。ロープブレイクでも桜庭が攻撃を止めなかったため、レフリーが桜庭を離し注意する。その隙に再びディーノからバナナの皮、今度はコーナーで腰を落としている自分の前に設置する。レフリーの注意が終わり、再びササダンゴに攻撃しようとコーナーへ歩を進める桜庭。しかしバナナの皮に気付かず、また派手に転ぶ。一瞬、バナナの位置を確認した気もするが、そんなワケはない。2発目のリーマン・ショック成功。あと1発。あと一度、垂直落下式リーマン・ショックを決められれば間違いなく勝てる。ササダンゴのアメリカンドリームがすぐそこにあったが、ここでロープ際でササダンゴの腕が桜庭に捕獲されてしまう。絶体絶命。思わずセコンドのディーノがタオルを投げようとする。

しかし、ここで奇跡が起こる。会場にエトピリカが流れ始め、会場の時間が止まり、観客にササダンゴの心の声が聞こえてくる。ササダンゴの回想と共に時間はゆっくりと流れ始め、捕らえられた腕を抜くササダンゴマシン。スローモーションの桜庭の打撃を躱し、目潰しから首を取り、リーマンショックの体勢へ。夢の勝利目前、しかしここでまたしても、本日2度目の奇跡が起こる。

また会場の時間が止まり、今度は桜庭の心の声が観客に聞こえ始める。

桜庭の回想が終わると共に、エトピリカは止まり、会場の時間も元通りに。桜庭は一瞬でサクラバロックをササダンゴに決め、ササダンゴ即タップ。試合終了。ディーノが慌ててリングインし怯えながらササダンゴを庇う。


可笑しく、楽しく、幸せなプロレス。茶番と一笑してしまう人もいるのかもしれない。でもその中に感じ取れる表現するコト、モノづくりへの深い想い、笑いながらも感動すらしてしまう。

<試合後コメント>

スーパー・ササダンゴ・マシン

「あの、これが……これがあのDDTワールドであったり、マッスルの世界観だったりとか、実はそんなんじゃなくて、これが桜庭和志という人間の、桜庭和志というプロレスラーの世界観だったとしたら、僕はそういう意味で……あの……全然こういう自分の得意な分野というか、自分が得意だと思っていた試合というか、プロレスでも、それでも実は俺は色んなとこで桜庭和志に、桜庭さんに敵わなかったなっていう気持ちが…喋っていいことなのかどうか分からないですけど、実はそれが一番強くあります。そういう意味では、ほんとに悔しいし、この今のプロレスの大きな流れとは関係ないかもしれないですけど、俺は絶対、あるべきだと思ってる、面白いと思ってる、これも絶対プロレスのひとつなんだと思ってるこのジャンルは、まだまだ、まだまだ追求していかなきゃいけないんだなと。ここは全然ゴールじゃないです。あの、皆、言ってる通り、途中の途中の途中なんで。ありがとうございました」

スーパー・ササダンゴ・マシン、男色ディーノ、桜庭和志。全然違う場所で戦ってきたプロレスラーの同じモノ。「空間を創る」天才たちが見ている同じモノ。


第8試合はKO-Dタッグ選手権試合、関本大介のプロレスラーとしての色気に惚れ惚れして、メインはHARASHIMAと飯伏幸太。団体を中で守るエースと外で戦うエースの一騎打ちで締め、最後に会場に「INTO THE LIGHT」が流れて余韻と共に終わる。こんな極彩色豊かな大会には中々出会えない。

プロレスが再び注目され始めたが、新日本の一人勝ちという声も聞こえる中、いやいや、ちょっと待てと、こんなんもありまっせ?と確かに今日のDDTは言っていたし、熱も生み出していた。

後に観直した桜庭、ササダンゴ戦での解説者の試合後のコメントが笑えた。

「ササダンゴの敗因は、桜庭に回想をさせたことですね」

・・・何だソレ(笑)

「いいぞ、もっとやれ」

DDTのリングにはこの言葉が溢れている。

平成27年2月20日 Nicotina Menthole

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