電王戦FINAL第2局 永瀬拓矢 vs Selene 2015.3.21
2015年3月21日。高知県高知市高知城。かつて土佐と呼ばれたその場所で電王戦FINAL第2局永瀬拓也六段対Seleneが行われた。
―坂本竜馬。
確かに対局中も中継からは何度もその名前が聞こえた。現地リポーター、高知の観光案内のゲストの方、解説の先生、当たり前である。土佐と言えば坂本竜馬、日本のヒーローの故郷なのだ。親しみやすい高知の人達の観光案内と張り詰めた真剣勝負の対局画面。そのコントラストを楽しみながら中継を見ていた。
土佐だから坂本竜馬。当然今回のPVにも登場していた。しかしそれはこの対局自体には、勝負そのものには直接関係の無いことだった。だが対局が終わって今尚、私の頭の中は坂本竜馬という名前を何度もリフレインしている。
春の香りすら漂う現場リポート。そことは遠く離れた場所であるかのように、対局画面では真剣の斬り合いが行われていた。将棋は度々このような表現が使われる。お互いの攻撃を紙一重で見切る。そのあまりの鋭さと深さに我々は畏敬の念を抱く。相手がコンピューターであっても本質は変わらない。やるか、やられるか。
「感情論は必要ない」
今回の対局PV中での永瀬六段の言葉が響く。
2度、3度鍔迫り合いがあり、いよいよ深く斬り合うぞと言う場面。
この時点で中継画面の評価ソフトとして使われていたやねうら王の評価値は先手のSeleneが+534と判断。
誰もがこれから始まる戦いに神経を研ぎ澄ませ、固唾を呑んだ。
―その刹那だった。永瀬六段は胸元から銃を抜き、躊躇無く、表情ひとつ変えず、引き金を弾いた。
対局、解説場とも騒然とする中、当の本人はゆっくりと水を飲み開発者に告げる。
「ほっとくと投了すると思いますよ」
それは、私の耳には
「ほっといたら死にますよ?」
と聞こえた。
その穏やかさの中に見え隠れする勝負の鬼の狂気に、身震いする。
△2七同角、不成。
Seleneは角、飛車、歩の成らずに対応しておらずフリーズ、そして△2七同角不成の王手を無視して、▲2二銀と指してしまう。結果としては王手無視の反則負け。
しかし震えたのはその突如訪れた意外な結末にではない。
そのあまりの衝撃の大きさに隠れてしまった、棋士永瀬拓也の凄さ。
それは最後のあの場面で、完全にコンピューターを凌駕していたということ。
銃は持っていたがその銃に弾が入っているかの確信はなかった。もしかしたらもう抜かれているかもしれない。だがどちらでも永瀬六段は構わなかった。
やねうら王もSeleneも先手が有利だと読んでいた局面で永瀬六段だけ、自分が勝勢であることを読み切っていた。
ーどちらにせよ俺が勝つ。
謙虚でまだあどけなさすら残る青年が時々あごを上げる仕草をする。多分本人も意識していないクセなのだろう、その時の下を射抜く勝負師の目。
角が竜馬に成らずに、仕留める。
結果として斬り捨てずに、銃で撃ち仕留める。
―坂本竜馬。
「世の人は我を何とも言わば言え 我が成す事は我のみぞ知る」
―永瀬拓矢。
「達観し過ぎると良くない」
そう言って笑うこのまだ22歳の本物の勝負師の今後に期待と興奮をせずにはいられない。
最後に、立会人を将棋連盟の人間や棋士が勤めるのなら、もう一人コンピューターソフト側の人間も必要ではないかと思う。Selene開発者の西海枝昌彦さんは非常に無念の想いがあったと思うが、局後の会見は実に見事なものであった。ついつい人間対コンピューターという構図で、敵側のような見方をされてしまう開発者の方々だが、第1局後Aperyをオープンソース化した平岡拓也さんなど、ユニークで魅力のある方が多いのも電王戦の見所だ。
平成27年3月21日 Nicotina Menthole
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