桜庭和志×鈴木みのる WRESTLE KINGDOM 9 in 東京ドーム 2015.1.4
この試合が終わった時の感想は「ああ、、、。」だった。
もう一歩、いや二歩、三歩、、、扉に手は掛かっていた、掛かっていなかった、、、何とも不思議な感覚に襲われた。
決して悪い試合ではなかった。
だけど、東京ドームが爆発する可能性がこの2人ならあった。誰も見たことのない戦いをこの2人なら出来たはずだった。
鈴木みのるはその準備をしていた。全身白づくめの衣装、この試合の為に研ぎ澄ました体。入場から殺気を纏っていた。思わず「これは…」と息を呑んだ。
桜庭和志はどうだったのだろう…。
通称「世界一性格の悪い男」と言われる鈴木みのる。個人的には「世界一格のあるプロレスラー」、誰よりも「言葉」を持っているプロレスラーだと思う。
桜庭との初遭遇は去年の春の両国での6人タッグマッチ。試合前から鈴木は桜庭を挑発、それは6月に2人の抗争が本格化してからも続いた。試合中も試合後も言葉で、態度で、徹底して桜庭を挑発し続けた。最初から鈴木みのるにはこの戦いの辿りつきたい決着点が見えていた気がする。桜庭とやりたい試合。桜庭とならやれる試合。それが鈴木みのるにはあったのではないだろうか。「UWF」という言葉を鈴木は使った。お互いの川を逆に辿れば同じ「U」という文字の源流に辿り着く。だけどこれは少し意外だった。この2人の戦いでUWFを持ち出すのか、というのが正直な感想だった。その中で「俺の中に眠ってるものと、テメェの心の中に仕舞い込んだもの」という言葉があった。こちらはとてもしっくりときた。今の鈴木みのるはどんな形の戦いにも対応できる。どこのリングに上っても鈴木みのるを出せる。そんな鈴木の中に眠っているもの、昔の鈴木みのるが追い求めていたモノ。「テメーのプロレス」「テメーのUWF」「俺のトコに来いよ」そう鈴木みのるは何度も繰り返した。強さに特化したプロレス「UWF」、そして桜庭和志にとっては総合格闘技のリングもプロレスだった。(壊し合いがしたいんだろ?)(やるかやられるかがしたいんだろ??)
感情を剥き出しにして殴り、蹴り、罵倒しているのに、桜庭を救おうとしているようにさえ見えた。
桜庭和志が大好きだ。尊敬する人は数多けれど、こんなに心を揺さぶられた人は他にいない。子供の頃からの自分にとって唯一、たった一人のHERO。サクが新日本のリングに上って3年。タッグで戦うサクの姿も自分としては楽しんで見れた。タッグマッチで相手チームを分断するために味方が一斉にコーナーへ走る。サクだけ1テンポ遅れる。相手コーナーへ行った時にはもう蹴る相手がいない。「戦い」の形の違いに戸惑い、プロレスラーとして戦い続けてきた男がそのプロレスのリングで迷子になっている矛盾。切なくなりながらも、それでもサクは戦っている。目を背けない。それはずっと前に決めたことだ。サクがリングにいることが嬉しかった。
鈴木みのるとの抗争の間、見ていて一番感じたのはコンディションの悪さだった。
PRIDE時代から個人的にその日のサクの調子を見極める判断は、蹴りが走っているかどうかだった。シングルレッグのタイミングはどんな時でも素晴らしいが、ローやミドルがキレている時のサクはもっと強いというのが自論で、逆に足が動いていない時は一気に心配になった。特に初期の頃は試合の組み立て、自分のテンポの作りに蹴りを有効に使っていたと思う。
なので新日本での戦いでもそういう見方をしてしまう。全くの勝手な見解だが、その目線から見るとこの鈴木みのるとの抗争中、サクのコンディションは悪く映った。最悪にさえ感じた。目の前にヤル気になっている鈴木みのるがいるのに、ノり切れないサクが歯がゆかった。
振り切れないのは他にもきっと理由はある。
鈴木みのるが起こそうとしたサクの中に燻っている火。赤か青かと言われれば、多分青い火。壊れている感覚。リングの中でのありえない程のリラックス。飄々としながら、やっていることは殺し合いと言ってしまえる狂気。そのギリギリの壊しあいを楽しみ、求めている本能。
他人に触発されて出せるものでもなく、またサクはこのリングでそれを探しているようにも見えなかった。だから戸惑っているように見えた。新日本のリングに上ってからずっと探している新しい「答え」と自分の中の消えない青い炎。
「葛藤」「悩み」「迷い」でもそれもまた、桜庭和志のファンとして、見る価値のある桜庭和志の「プロレス」だった。
鈴木みのるの提案で3カウントなしの完全決着ルールで行われた1.4の決着戦。
試合は9分21秒、鈴木みのるが桜庭を絞め落とす形で終わった。
試合後の鈴木みのるのコメント。
――完全決着ルールで勝利を収めましたが、率直なご感想をお願いします。
鈴木「感想? 俺のが強ぇぞ、バカ野郎」
――この闘いを前に、全身白づくめ、まさに白装束のスタイルで臨んだという、決意、覚悟、その辺りのお気持ちはいかがだったんでしょうか?
鈴木「なにをいまさら。俺はよ、アイツがよ、この新日本のリングをまたいだ時から何年だ? 3年か? 最初っからよ、こんなこといったらなんだけど、アイツのこと最初っから嫌いなわけじゃねぇし、最初っから認めてねぇわけじゃねぇ。たぶん今日ここに来てるレスラーの中で俺が一番よく知ってるはず。だから待ってたんだよ。俺の舞台にアイツの足で来るのを待ってたんだよ」
――その桜庭選手と闘いを終えていかがですか?
鈴木「だから言ったじゃねぇか。俺のが強ぇだろって」
――闘いを終えて、桜庭選手から握手を求めてきましたが、その時はどんなお気持ちでしたか?
鈴木「いや、わかんねぇ。特にねぇ。お前のその喋り方が気に入らねぇから、おまえになんか喋りたくねぇ。おまえらも他のマスコミもよ、『どうせ桜庭なんて』って、おまえら口揃えて言ったろ、プロレスファンも。だろ? 俺はだから、はなっからアイツのことなめちゃいねーよ。今日だって“世界の桜庭”とやるっていうつもりで練習積んできたし、その覚悟持ってリング上がったし。テメェみたいにな、あとから出た答えを見て、七色に答え変えてな、質問だぁ、なんだぁ言ってな、ていのいい言葉並べてる人間とは違うんだよ。最初っから俺はそのつもりでリングに上がってんだ」
――最後にUWFのテーマが流れましたが、その時のお気持ちはいかがでしたか?
鈴木「懐かしいなって。別に俺が仕込んだもんじゃねぇから、知らねぇよ。おまえじゃねぇの? 誰かが仕込んだよ。だから知らねぇよ、そんなの。俺が出来るのは、リングの中で殴り合うこと、俺が出来るのは相手をぶちのめすこと、俺が出来るのは相手に勝つことだ。照明が何色だとか、音響がどうとか、歌がなんだとか、俺が用意するもんじゃねーだろ? 俺が命かけてんのは殴り合うことだ、相手をぶっ飛ばすことだ。だから知らねぇよ、そんなの」
――最後、抱擁された時、どんな言葉を交わしたんですか?
鈴木「教えてほしい? おまえになんか教えねぇよ。知りたかったら、命かけてリング上がって闘えばいいんだよ。そうしたらなにを喋ったのかわかるよ。ざまーみろ」
世界一性格の悪いプロレスラーは、本当に最高のプロレスラーだと思う。冒頭の試合直後の感想が恥ずかしくなる。現状のプロレスのリングの上での格の違いが、ハッキリと出た試合だったのかもしれない。
厳しく痛いプロレスの難しさ。
簡単な答えなんて提示してくれない。
明確じゃない。
何を信じるかは自分で決めろ。
プロレスは甘やかしてなんてくれない。
目を背けない。それはずっと前に決めたことだ。ヴァンダレイ・シウバに失神させられた時、ヒカルド・アローナにボコボコにされた時、会場の時間が止まる瞬間を経験する度に強く思った。
何があっても戦い続けてきた人だ。
そのたった一人のHEROは今も戦っている。
ファンはただ、声援を送る。
平成27年1月9日 Nicotina Menthole
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