桜庭和志×柴田勝頼 DOMINION 7.5 in 大阪城ホール
10年前、柴田は青いリングの上にいた。棚橋弘至、中邑真輔と並び、新闘魂三銃士と称され、将来を期待されていた。
時はプロレス暗黒時代。総合格闘技が隆盛を極め、プロレスファンの多くがさいたまへ流れていった時代。暗がりの中、彼ら3人は三者三様の答えを出した。
「100年に1人の逸材」自分自身を自分でそう決め、必ずまたプロレスに光が射す時が来ると信じ、ひたすらに前だけを見て、プロレスの道を進んだ棚橋弘至。そうして彼は現在新日本のエースとなり、大歓声を浴びている。
プロレスがナメられるコトが許せなかった。格闘技より下に見られているコトが我慢できなかった。史上最年少、最速で新日本の至宝IWGP王座を獲得した中邑真輔は、そのベルトを腰に巻いたまま、プロレスラーとして総合のリングに挑んだ。「1番凄いのはプロレス」そうリング上で言い放った男は今、「ストロングスタイルの王」と呼ばれている。
プロレスをやり続けた棚橋。プロレスラーとして総合に挑んだ中邑。そして柴田は新日本を辞めた。
それ以上ソコにいることは出来なかった。プロレスが、新日本が好き過ぎた男は、守る為に家を出た。証明するために家を出た。それは長い家出となった。帰るつもりもなかった。
それから2年後。今から遡ること7年前に彼らは出会う。
2007年9月17日、場所は総合格闘技のリングの上。2人は向い合っていた。
プロレス時代と変わらぬ黒パンでコーナーに立つ狂犬レスラー、柴田勝頼。
反対のコーナーにいるのは総合格闘技の伝説、桜庭和志。
プロレスラーが総合のリングで負け続ける中、一人海外の強豪相手に連戦連勝を重ね、あのグレイシー一族との伝説の死闘。「プロレスラーは本当は、強いんです」プロレスを救い、プロレスファンの心を救い、プロレス界の救世主と呼ばれた男。その桜庭の活躍と共に、総合格闘技は異常な熱を生み始め、日本の格闘技は一大ムーブメントとなる。しかし、それは結果としてプロレスを暗がりへと追い込むことともなった。
常にその熱の中心にいた伝説の男。プロレスを救い、その結果プロレスを窮地に追い込んだ男。狂犬とIQレスラーの初遭遇。
試合は一方的だった。
桜庭がグラウンドで柴田を完全にコントロールし、一方的に殴り、関節を決める。
1ラウンド6分20秒 腕ひしぎ十字固め。
伝説の圧勝。
何をされたのかもわからなかった。
試合後、柴田は強くなるため桜庭に師事、2人は共に練習をし始める。
時は更に過ぎ、4年後の2012年8月12日。
2人は揃って、新日本プロレスのセルリアンブルーのマットの上に現れる。
柴田「ケンカ、売りに来ました。最高の相方と共に」
桜庭「どうも、桜庭です。どうしてもこのリングで試合をしたいのでよろしくお願いします」
そして新日本での戦いが始まった。新日本正規軍とのタッグマッチで連戦連勝。
しかし、柴田は盟友後藤との再開、かつての宿敵、棚橋、中邑との遭遇。桜庭もまた、中邑との邂逅、永田との再開、プロレスのリングの上でグレイシーとの遭遇、鈴木みのるとの一騎打ちと青いマットの上で過ぎる時の速さと共に、二人の道は少しずつズレていった。
そして今年のINVASION ATTACK 2015で2人はまた、反対側のコーナーに立っていた。
10分51秒。サクラバロックでまたも桜庭の勝利。ギブアップをしない柴田が左手をマットに叩いた。
もう、戦うのに理由はいらなかった。
何度も前哨戦で激しくやりあい、そして大阪で8年ぶりに、彼らは一対一で向かい合った。
柴田にとっての桜庭。桜庭にとっての柴田。
わかっていることは、お互いがいなければ、今日、ここにはいなかった。
DOMINION 7.5 in 大阪城ホール。21年ぶりに大阪城ホールで行われた今大会。全9試合中、第3試合目にこの試合は組まれた。それが今の新日本でのこの試合の位置づけだった。
リングインし、真っ直ぐに桜庭へと歩を進める柴田。突き放す桜庭。
会場は柴田コール。序盤からクリーンブレイクせずに柴田は桜庭の頬を張っていく。一発一発にハッキリと意思が見える。
試合が動いたのは、いや試合が始まったのは開始から4分程経過した時だった。柴田が得意の低空の串刺しドロップキックから桜庭の頭を蹴りあげていく。腰を落としている桜庭の頭を、まるで昔の父親が子供にゲンコツをする時のように手の平に息を吹きかけてから右手で思い切り叩く。
即座に桜庭が立ち上がり柴田と額を突き合わす。ここからだ。と言わんばかりに柴田が張っていく。しかし桜庭も首相撲からの膝の連打、ミドルから突っ込んできた柴田に対しカウンターの膝。2013年のレッスルキングダム7で中邑真輔相手に入れたあの膝がフラッシュバックする。この辺りから会場の熱がフツフツと上がり始める。
悶絶しながら場外へ逃げる柴田に桜庭がプランチャ。今度は2000年の大晦日、猪木ボンバイエでのケンドー・カシン戦を思い出す。あの時の桜庭が30歳、今が45歳。「今のが上手いじゃん!」と思わず突っ込む。
関節の取り合いから柴田の背中に抱きついてのスリーパー、そしてロープへ逃げようとする柴田の腕を取ってのパロスペシャル。完全に両腕を取られた柴田。だが柴田も負けていない。そのままの状態で必死にロープへ歩み、セカンドロープを歯で噛んでのロープブレイク。会場はこの日最初の沸点へ。試合は死闘へと突入していく。
柴田のラリアット。桜庭の腕ひしぎからのフットチョーク。何とか逃れた柴田の張り手をガードしヒコーキ投げからのサクラバロック。(新日本に上がってから桜庭が時折見せるこのムーブは非常に綺麗で好きなムーブだ)ここで柴田のクラッチを切れれば勝負有りだったが、柴田も懸命に離さない。執拗に腕を取りに行く桜庭、堪える柴田。一瞬の隙を付き柴田がバックに回る。ロープを掴んで堪える桜庭をぶっこ抜いてのジャーマンからPK。勝負を五分に戻す。呼吸を整える両者。二人への歓声が響く。決着が近づく。
スリーパーから柴田を落としに入る桜庭。必死にエルボーで逃れた柴田のもの凄いカウンターの張り手。今度は柴田がスリーパー。桜庭が猪木バリの腕折りで逃れようとする。勝負所、右腕を取られる瞬間に柴田が左腕で桜庭へスリーパー。これがガッチリと決まり桜庭が腰を落とす。そしてコーナーへ走り、正調のPK。3カウント。
11分48秒。濃密な時間が終わる。
言葉は交わさず、横たわる桜庭に深く一礼し先にリングを下りる柴田。花道の最後にもう一度深々と一礼をした。
苦しそうにしながらも声援に答えながら花道を戻る桜庭。
大きな拍手が送られていた。
この日のDOMINIONはメインのAJ対オカダまで素晴らしい大会となったが、間違いなく火がついたのはこの第3試合だった。個人的に思い入れの強すぎるカードではあったが、そうではない人にもきっと届いていた。
桜庭和志と柴田勝頼。
一つの結実。
そして戦いは続く、、、。
平成26年7月7日 Nicotina Menthole
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